柴犬のしつけと生活

バカ犬の独り言 第一話 プロローグ

わたしが今の飼い主と暮らし始めてから、かれこれ10年近くになります。生まれは南東北になりますが、気がついたら、関東に連れて来られ、知らぬ間に、浦和のペットショップにいました。けれども、生来、脳天気なのでしょう。店員さんが自分の飼い主だと思っていました。なるようになるさ、と思いながら、ペットショップへ来る人来る人に愛想を振りまいて、そのおかげで優しくされました。しかも、会う人みんな、わたしに名前を付けました。太郎だの次郎だのと言う人もいました。ミッチャンやヨシコなんて、呼ぶ人もいました。オスなのかメスなのか、分からなかったようです。これもまた、わたしの脳天気な性格と関係しているのかもしれません。

 

けれども、引き取り手は、なかなか現われませんでした。生後半年まで、ペットショップにいた犬は、珍しいかもしれません。理由は何でしょう? たぶん一番の原因は、わたしの尾っぽにあったのかもしれません。わたしのような柴犬は、巻き尾であるのが、一般的と思われています。日本犬の特徴でもありますね。けれども、わたしは、巻き尾でなく、差し尾なんです。背中に巻き付くような尾っぽではなく、天にも昇るようにピ~ンと伸びています。時折、邪魔くさくなって、カリカリ歯を立てることもあります。それでも、決して嫌いではなく、結構、自慢げにも思っています。

 

差し尾の柴犬は、おそらくイメージとは合わないので、柴犬と言われても、本気で信じる人が少なかったのかもしれません。その点、今の飼い主は、巻き尾と差し尾を理解してなかったようです。実際、あとで知ったようで、わたしのことを「バカバカ」とよく言っていますが、一体、どちらが「本当のバカ」なのか、わかりませんね。

 

さっきも言いましたが、こんなバカ飼い主ともう10年近く暮らしています。面倒を見てもらっている、というより、わたしが面倒を見てやっているかもしれません。現在は、バカ飼い主の母親も、一緒に暮らしていますが、それまで、わたしと二人だけの生活でした。どうも家庭を持っていたらしく、バカ飼い主と違う臭いが、あちこちに残っていたんです。ああ、このバカ、離婚したんだ、それで、わたしを引き取ったんだ、と思いました。それだけ寂しかったのかな?、と思いましたが、そうではないようです。もともと犬と暮らしたかったらしく、室内で飼いたかったそうです。しかも、一人で面倒を見るのが夢だったようで、それを実践したようです。でもねえ、なんだかねえ、わたしが実験台のようにも感じますが、まっ、バカだから、しょうがないか!!、とも思っています。

 



 

そんなバカ飼い主と初めて会った時のことを、今でもはっきり覚えています。季節は春を迎えていました。わたしがペットショップのケージに入っていると、ひょっこりやって来ました。すでに人が来ると、愛想を振りまくことが日課だったので、きゃんきゃん喜んだフリをしました。ケージの向こうから、短い指を出して、ニコニコして、すぐに店員に言いました。

 

「これでいいです」

 

わたしは、ちょっと憤慨しました。なにがこれよ、名前を知らなくても、せめてこの柴と言いなさいよ、と思いました。ようやく引き取り手が現われたのに、こんな失礼な奴か、あ~あ、わたしもついてない、とも思いました。けれども、正直、ペットショップでは、人にかわいがられていても、リードでつながれるか、ケージの中で休むようになっていたし、居心地が良かったか、と言えば、そうとばかりは言えません。やっぱり、わたしは、柴犬です。日本育ちの日本犬です。大空の下で、走り回ったり、狩りをすることが、わたしたちの歴史の一部にもあります。単なる愛玩犬ではないものが、わたしたちの体の中にも、刻まれています。

 

「ようやく外に出られる」

 

ちょっとホッとしたことも確かです。

 

今の飼い主と初めて会ってから、約一週間後、引き取り日となりました。約束した時間に現われ、店員からわたしを受け取りました。当時の家は、ペットショップとそれ程離れていなかったので、バカ飼い主は、自転車でやって来ました。前籠に入れられながら、周囲を見渡しました。散歩などで、車などは知っていました。決して珍しい光景ではありませんでした。けれども、どこかすがすがしい気持ちであったことも覚えています。

 

そう言えば、まだ名前を言ってませんでしたね。わたしの名は、ヒロと言います。今年(2014年)の10月で、10歳になります。まだまだ元気いっぱいな柴犬のメスです。

 

- 続く -

 

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 バカ犬シリーズ
バカ犬の独り言 第二話 掛かり付けの動物病院 

 

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